6月13日女優の野際陽子さんが、肺腺がんで天国へ逝ってしまわれました。御年81歳。
ふだん芸能記事はスルーするわたしでも、見逃せない刹那を感じ取ってしまう大女優の途方もない喪失感。
これはいったいどこから来てるんでしょうね?
心の糸をたどってみるとわかりました。
もくじ
なぜ、昭和30年代男は野際陽子を忘れられないのか?
これは、ひとえに「キイハンター」という1968年4月、土曜の夜9時、最盛期30%の視聴率を誇るドラマに出演されていたせいです。
当時といえば、なんといってもスターと言えば健さんでした。
高倉健主演、映画昭和残侠伝で一時代を築いた東映も、テレビの普及とともに、映画の斜陽を感じはじめてた時です。
その東映が、「時代はTVだ!」と岡田社長の一声で、ちょうどテレビドラマ制作に乗り出したはじめた時期。
しかも任侠映画や時代劇じゃない、国際スパイ系アクション・ドラマという全く新しいジャンルに乗り出したんですね。
そんな東映が勝負をかけたギラギラしたドラマの熱気に、出会ってスパーク!心が沸騰してしまったのは、わたしだけではないはず。
キイハンターの第一話を制作した監督こそ、あの「仁義なき戦い」をつくった名監督深作欣二さんなんです。
後の「仁義なき戦い〜広島死闘編」で千葉真一さんは、キイハンターとは真逆の狂気めいた大友勝利という汚れ役を演じられました。
そんな千葉ちゃんの新しい顔を引き出したのも深作欣二監督。お互いの才能が開花する伏線はキイハンターにあったといっても過言ではないです。
千葉ちゃんの出世作でもあり、制作費が1000万という、当時ドラマ単体での予算をべらぼうに超えてたことでも、TBSの力のいれようがわかります。
なぜ、キイハンターは脳裏から消すことができないのか?
荒削りだけど、カッコイイ。そんな日本の高度成長期の上昇志向の雰囲気と、国際派スパイが活躍するモダンな洋画的雰囲気が、アクションシーンとともに画面から炸裂。
今までどこにもなかったスタイリッシュなスパイ達。冷静に考えると、そんな方、日本にいるわけないですよね?
ちょっと荒唐無稽ともいえるような新しいジャンルでありながら、事件の解決に命をかける役者たちの存在感は、説得力をもって子どもの魂をもゆさぶりました。
キイハンターには、そんな当時のちょっとアナーキーなアクション東映映画の雰囲気を見事に体現しながら製作されてます。
東映映画的に言えば
(「不良番長」+「仁義なき戦い」)÷2=キイハンター
とも言えるかもしれません。ちょっと強引かな。
キイハンターのオープニングは映像と音楽が見事に融合。今見ても逆に新しさを感じるくらいです。全然色あせることはありません。
BGM音楽アレンジの素晴らしさ。テンポと映像のコマ割り、色彩。当時としてはイケてるカッコよさにうちのめされました。
音楽PVの原型とも言える作品にしあがっています。この音楽と映像のマッチングも「仁義なき戦い」のBGMと映像の躍動感に通ずるものを感じます。
キイハンターが今リメイクされたら?昭和の雰囲気とは何なのか?
キイハンターの平成版とも言える、パロディ映像がYOUTUBEにアップされていました。
面白いしかっこいいです。キイハンターの根底にある爽快なアクション・ドラマの雰囲気が見事に焼き直されています。スマートでおしゃれな感じです。
昭和の役者の重厚な雰囲気。ちょっとバタ臭い荒削り感のある東映の作風。丹波さん、千葉ちゃん、野際陽子さんの言葉にならないカリスマ性が逆に比較すると理解できるのかもしれません。
一流の芸術には説明がつかない独特の魅力があります。
名ドラマには、名ナレーションの存在があった
やっぱり当時の名作ドラマのナレーションと言えば、芥川隆行さん。この声と語り口でないといけません。
今日もまた、地球のあらゆる所で陰謀、裏切り、暴動が渦巻く。
その渦中に飛び込む彼ら。恋も、夢も、望みも捨てて、非情の掟に命を賭ける。
彼らの求めるものは自由、願うものは平和。彼らはこう呼ばれた。「キイハンター」
キイハンター:ナレーションより引用
この語りこそが古き良き風格感ある正に、ザ・昭和と断言したいです。
芥川さんの「木枯し紋次郎」「キイハンター」の語り口は何度聞いても実に心地よい。
耳から入る名作、語りを味わえるのもキイハンターの魅力の1つです。
キイハンターには役者がそろっていた
キイハンターのボス、丹波哲郎さんは、おとぼけ霊能者になられる前、超絶ダンディズムのカッコイイボスでした。
とにかくキイハンターメンバーの5人が、みなさんドはまり役でかっこよかったんですね。
丹波哲郎さんのしびれる男の存在感はオーラ全開でキイハンターを仕切るボスそのもの。黒いハットとスーツが似合います。
主役の千葉ちゃんといえば、日体大あがりで運動神経が抜群。アクションが、かっこいい!
事件解決のなかに、スタントマンなしの千葉ちゃんのすごすぎるアクションシーンがあったりで、ハラハラ・ドキドキの連続。子どもながらに憧れたもんです。
そんな手に汗にぎる展開のなか、谷さんと大川さんのコミカルなからみ。笑いや涙あり。ホッとするようなシーンも忘れられません。
この共演がきっかけで、1973年に野際陽子さんは、千葉真一さんと結婚されます。当時野際さん37歳のときです。
野際陽子の魅力とは何なのか?
キイハンターでの野際陽子さんは、「元フランス情報局諜報部員:役名 津川啓子」という設定で謎めいた女スパイ役。
クールビューティーな魔性と、はじめて茶の間で対峙したとき、その得体のしれない雰囲気は、衝撃でした。
典型的なガキだったわたしは、大人のおねえさんはみんな笑顔で対応してくれるやさしい雰囲気の人しか知りませんでした。
女性のサディスティクな魅力にはじめて出会った瞬間かと笑。
キイハンターの女優さんで言えば、最初、野際陽子さんより、どちらかというと谷隼人さんの相棒的存在であるカワイイルックスの大川栄子さんが好きでした。
でも、だんだん見ているうちに、野際さんの魅力に惹かれていったのが、私の男としての成長といえるのかもしれません笑。
野際さんが演じた「女スパイ」と言えば、まず誰を思い出しますか?
女スパイのアイコンとして有名な「峰不二子」ですよね?
また、女優さんが活躍する洋風アクションと言えば、映画野良猫ロック、さそりシリーズの梶芽衣子さんも有名です。復讐する女のカッコよさを演じたら、梶さんの右に出る方はいません。
そんなクールビューティーの元祖でもあり、女スパイという原型モデルをつくったのが
実は野際陽子さんではないでしょうか。
主題歌はインストゥルメンタルバージョンだけでなく、野際さんが歌われています。日本のドラマ史上に残る名曲。
こんな大人の魅力が満載の映像に初めて茶の間で出会い、幼い少年には衝撃の連続でしたが、世間や大人の裏の世界を知る社会勉強のはじまりでもありました。
昭和の名女優たちは、死にません。
強烈な存在感でもって、あなたの心のなかに永遠に生き続けます。
梶芽衣子も素晴らしいし、この時代の女優さんって本当に美人が多いと思う。
左からひし美ゆり子、野際陽子、加賀まりこ、大原麗子。 pic.twitter.com/2NuFMPDXaC— まさと (@hopliasaimara) 2017年6月10日
こんな声もあがっていましたが、同じ気持ちです。梶芽衣子さん、菱見百合子さんにはまだ、まだがんばっていただき、楽しませてもらいたいです。
昭和を代表する、大女優野際陽子さんのご冥福を心からお祈り申し上げます。